任意後見契約のモデル例

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任意後見契約の「3つの型」

任意後見契約には、ご自身の現在の健康状態や「いつからサポートを開始してほしいか」というご希望に合わせて、「将来型」「移行型」「即効型」という3つの利用形態があります。 当事務所では、お客様のライフスタイルやご不安に最も適したプランをご提案し、公証役場にて確実な効力を持つ公正証書を作成します。

本記事では、それぞれの型の意義やメリット・デメリット、実務上の注意点を詳細に解説するとともに、実際に当事務所で作成する契約書の全条文および代理権目録を紹介します。

1.将来の不安に備える基本形「将来型」

💡 将来型とは

「将来型」は、任意後見契約法の法文に則した最も典型的な契約形態です。 委任者(ご本人)が、将来自己の判断能力が低下した時点ではじめて任意後見人による保護を受けようとする場合に利用されます。現在は心身ともに健康であり、自分の財産管理や日常生活の事務はすべて自分で行えるという方が、「将来への保険(お守り)」として締結するケースです。

【メリットとデメリット】 最大のメリットは、元気なうちはこれまで通り自由に生活でき、いざという時の安心だけを確保できる点です。 一方で、デメリット(実務上の最大のリスク)は、「ご本人の判断能力が低下したことに、誰が気付くのか」という点にあります。任意後見契約は締結しただけでは効力が生じず、受任者には何の権限もありません。そのため、ご本人が認知症になったことに誰も気づかず放置されるリスクを防ぐため、「見守り契約」を必ずセットで締結し、受任者が定期的な面談や電話連絡によってご本人の健康状態を継続的に把握できる体制を整えておくことが強く推奨されます。

📄 任意後見契約公正証書(将来型)

第1条(契約の趣旨) 甲(委任者)は、乙(受任者)に対し、令和○年○月○日、任意後見契約に関する法律に基づき、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における甲の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務(以下「後見事務」という。)を委任し、乙は、これを引き受ける。

第2条(契約の発効) 本契約は、任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる。

第3条(後見事務の範囲)甲は、乙に対し、別紙「代理権目録」記載の後見事務(以下「本件後見事務」という。)を委任し、その事務処理のための代理権を付与する。

2 乙は、甲の身上に配慮するものとし、適宜甲と面接し、ヘルパーその他日常生活援助者から甲の生活状況につき報告を求め、主治医その他の医療関係者から甲の心身の状態につき説明を受けることなどにより、甲の生活状況及び健康状態の把握に努めなければならない。

第4条(証書等の引渡し等)甲は、乙に対し、本件後見事務処理のために必要と認める範囲で、適宜の時期に、次の証書等及びこれらに準ずるものを引き渡す。

 ①登記済権利証・登記識別情報

 ②実印・銀行印

 ③印鑑登録カード、住民基本台帳カード、個人番号(マイナンバー)カード・個人番号(マイナンバー)通知カード

 ④預貯金通帳

 ⑤キャッシュカード

 ⑥有価証券・その預り証

 ⑦年金関係書類

 ⑧健康保険証、介護保険証

 ⑨土地・建物賃貸借契約書等の重要な契約書類

2 乙は、前項の証書等の引渡しを受けたときは、甲に対し、預り証を交付してこれを保管し、同証書等を本件後見事務処理のために使用することができる。

第5条(費用の負担) 乙が本件後見事務を処理するために必要な費用は、甲の負担とし、乙は、その管理する甲の財産からこれを支出することができる。

第6条(報酬)甲は、乙に対し、本件後見事務処理に対する報酬として、1か月当たり金○○円を当月末日限り支払うものとし、乙は、その管理する甲の財産からその支払を受けることができる。

2 前項の報酬額が、甲の生活状況又は健康状態の変化、経済情勢の変動、その他本件後見事務の処理状況等により不相当となった場合には、甲及び乙は、任意後見監督人と協議の上、これを変更することができる。

3 前項の場合において、甲がその意思を表示することができない状況にあるときは、乙は、甲を代表する任意後見監督人との間の合意によりこれを変更することができる。

4 前二項の変更契約は、公正証書によってしなければならない。

5 後見事務処理が、不動産の売却処分、訴訟行為、その他通常の財産管理事務の範囲を超えた場合には、甲は、乙に対し、毎月の報酬とは別に報酬を支払う。この場合の報酬額は、甲と乙が任意後見監督人と協議の上これを定める。甲がその意思を表示することができないときは、乙は、甲を代表する任意後見監督人との間の合意によりこれを変更することができる。この報酬支払契約は、公正証書によってしなければならない。

第7条(報告)乙は、任意後見監督人に対し、3か月ごとに、本件後見事務に関する次の事項について書面で報告する。

(1)乙の管理する甲の財産の管理状況

(2)甲を代理して取得した財産の内容、取得の時期・理由・相手方及び甲を代理して処分した財産の内容、処分の時期・理由・相手方

(3)甲を代理して受領した金銭及び支払った金銭の状況

(4)甲の生活、療養看護につき行った措置

(5)費用の支出及び支出した時期・理由・相手方

(6)報酬の収受 2 乙は、任意後見監督人の請求があるときは、いつでも速やかにその求められた事項につき報告する。

第8条(契約の変更) 本契約に定める代理権の範囲を変更する契約は、公正証書によってするものとする。

第9条(契約の解除)甲又は乙は、任意後見監督人が選任されるまでの間は、いつでも公証人の認証を受けた書面によって、本契約を解除することができる。

2 甲又は乙は、任意後見監督人が選任された後は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、本契約を解除することができる。

第10条(契約の終了)本契約は、次の場合に終了する。

(1)甲又は乙が死亡し、又は破産手続開始決定を受けたとき。

(2)乙が後見開始の審判を受けたとき。

(3)乙が任意後見人を解任されたとき。

(4)甲が任意後見監督人選任後に法定後見(後見・保佐・補助)開始の審判を受けたとき。

(5)本契約が解除されたとき。

2 任意後見監督人が選任された後に前項各号の事由が生じた場合、甲又は乙は、速やかにその旨を任意後見監督人に通知するものとする。

3 任意後見監督人が選任された後に第1項各号の事由が生じた場合、甲又は乙は、速やかに任意後見契約の終了の登記を申請しなければならない。

代理権目録

1 不動産、動産等全ての財産の保存、管理及び処分に関する事項

2 金融機関、証券会社及び保険会社との全ての取引に関する事項

3 甲の生活費の送金及び生活に必要な財産の取得、物品の購入その他の日常生活関連取引並びに定期的な収入の受領及び費用の支払に関する事項

4 医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項

5 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は審査請求に関する事項

6 訴訟行為(民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項を含む。)に関する事項

7 以上の各事項に関連する一切の事項

※上記契約の第3条に基づいて添付される、受任者が行うことができる代理権のリストです。

2.財産管理委任契約を同時に締結する「移行型」

💡 移行型とは(詳細解説と制度濫用のリスク)

「移行型」は、元気なうちのサポートを行う「委任契約(財産管理委任契約)」と、将来認知症になった後のサポートを行う「任意後見契約」を同時に締結する形態です。実務上、任意後見契約の中で圧倒的に需要が多いのがこの型です。 例えば、「頭はしっかりしているが、足腰が不自由で預貯金の払戻しや役所への手続きが容易でない」といった場合に、契約締結時から直ちに受任者に財産管理を委託し、将来判断能力が低下した後は公的機関(家庭裁判所・任意後見監督人)の監督の下で途切れなく(シームレスに)事務処理を継続してもらうことができます。

【⚠️ 弁護士が警鐘を鳴らす「制度濫用の防止策」】 移行型は大変便利ですが、実務上、親族などの受任者による「不正行為(制度の濫用)」の温床になりやすいという重大なリスクを抱えています。 移行型の前半部分である「委任契約」の段階では、裁判所や監督人のチェックが入りません。そのため、委任者が受任者に包括的な代理権を与え、銀行の印鑑や通帳を預けた結果、受任者がその預貯金をみだりに自己のために使い込んでしまう(費消する)事件が頻発しています。さらに悪質なケースでは、ご本人の判断能力が低下し、本来であれば任意後見監督人の選任申立てをすべき状況であるにもかかわらず、監督人の厳しい監視の目から逃れるために、申立てをしないまま不正な財産管理を放置する事例も問題となっています。

【当事務所の安全対策】 このような問題に対処するため、当事務所では契約書の作成において以下の対策を徹底しています。

  • 代理権の範囲の限定: 年金等の受領や施設・病院への支払いにすぎない場合、委任契約の代理権を包括的なものではなく「限定的な内容(特定の金融機関の取引のみ等)」に絞り込みます。
  • 財産管理の開始時期の明示: 委任者が元気なうちは自分で管理したいという希望があれば、「契約から一定期間経過後」や「入院した日に開始」といった特約を定めます。
  • 解除に関する厳格な規定: 後述する契約書第9条の通り、委任契約の解除が極めて容易に行われると、受任者の代理権の存在が不安定になるため、「委任契約の解除は、任意後見契約の解除とともに行わなければならない」という制限を設け、手続を厳格にしています。

📄 委任契約及び任意後見契約公正証書(移行型)

※通常、生前の財産管理委任契約と任意後見契約の2つの契約を、1通の公正証書にまとめて作成します。

第1 委任契約(財産管理委任契約)

第1条(契約の趣旨) 甲は、乙に対し、令和○年○月○日、甲の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務(以下「委任事務」という。)を委任し、乙は、これを引き受ける(以下「本委任契約」という。)。

第2条(任意後見契約との関係) 本委任契約締結後、甲が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況になったときは、乙は、速やかに、家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の請求をしなければならない。

2 本委任契約は、後記第2の任意後見契約につき任意後見監督人が選任され、同契約が効力を生じた時に終了する。

第3条(委任事務の範囲) 甲は、乙に対し、別紙「代理権目録(委任契約)」記載の委任事務(以下「本件委任事務」という。)を委任し、その事務処理のための代理権を付与する。

2 乙は、甲の身上に配慮するものとし、適宜甲と面接し、ヘルパーその他日常生活援助者から甲の生活状況につき報告を求め、主治医その他の医療関係者から甲の心身の状態につき説明を受けることなどにより、甲の生活状況及び健康状態の把握に努めなければならない。

第4条(証書等の引渡し等)甲は、乙に対し、本件委任事務処理のために必要と認める範囲で、適宜の時期に、次の証書等及びこれらに準ずるものを引き渡す。(※内容は将来型第4条と同等)

2 乙は、前項の証書等の引渡しを受けたときは、甲に対し、預り証を交付してこれを保管し、同証書等を本件委任事務処理のために使用することができる。

第5条(費用の負担) 乙が本件委任事務を処理するために必要な費用は、甲の負担とし、乙は、その管理する甲の財産からこれを支出することができる。

第6条(報酬) 甲は、乙に対し、本件委任事務処理に対する報酬として、1か月当たり金○○円を当月末日限り支払うものとし、乙は、その管理する甲の財産からその支払を受けることができる。

第7条(報告) 乙は、甲に対し、○か月ごとに、本件委任事務の処理の状況につき報告書を提出して報告する。

2 甲は、乙に対し、いつでも、本件委任事務処理の状況につき報告を求めることができる。

第8条(契約の変更) 本委任契約に定める代理権の範囲を変更する契約は、公正証書によってするものとする。

第9条(契約の解除) 甲及び乙は、いつでも公証人の認証を受けた書面によって本委任契約を解除することができる。ただし、本委任契約の解除は、後記第2の任意後見契約の解除とともにしなければならない。

第10条(契約の終了) 本委任契約は、第2条第2項に定める場合のほか、次の場合に終了する。

(1)甲又は乙が死亡し、又は破産手続開始決定を受けたとき。

(2)甲又は乙が後見開始の審判を受けたとき。

(3)本委任契約が解除されたとき。

第2 任意後見契約

第1条から第8条まで (※前記の「将来型」の第1条から第8条までと同じ内容を記載します。ただし、⑶上の「代理権目録」は「代理権目録(任意後見契約)」と記載します。)

第9条(契約の解除)甲又は乙は、任意後見監督人が選任されるまでの間は、いつでも公証人の認証を受けた書面によって、本任意後見契約を解除することができる。ただし、本任意後見契約の解除は、前記委任契約の解除とともにしなければならない。

2 甲又は乙は、任意後見監督人が選任された後は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、本任意後見契約を解除することができる。

第10条(契約の終了) (※前記の「将来型」の第10条と同じ内容を記載します。)

代理権目録(委任契約)

1 甲の有する一切の財産の管理、保存

2 下記金融機関との全ての取引

(1)○○銀行○○支店

(2)○○信用金庫○○支店

(3)ゆうちょ銀行

(4)甲が取引をするその他の金融機関

3 家賃、地代、年金その他の社会保険給付等定期的な収入の受領、家賃、地代、公共料金等定期的な支出を要する費用の支払並びにこれらに関する諸手続等一切の事項

4 生活に必要な送金及び物品の購入等に関する一切の事項

5 保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約に関する一切の事項

6 登記の申請、供託の申請、住民票、戸籍事項証明書、登記事項証明書の請求、税金の申告・納付等行政機関に対する一切の申請、請求、申告、支払等

7 医療契約、入院契約、介護契約、施設入所契約その他の福祉サービス利用契約等、甲の身上監護に関する一切の契約の締結、変更、解除、費用の支払等一切の事項

8 要介護認定の申請及び認定に対する承認又は審査請求に関する一切の事項

代理権目録(任意後見契約)

(※将来型と同じ内容を記載します。)

※委任契約段階では、監督人が不在であるというリスクに鑑み、不動産売却などの重大な財産処分行為は含めず、生活に必要な手続きに限定して指定するのが実務上安全とされています。

3.すでに不安がある場合の緊急対応「即効型」

💡 即効型とは(詳細解説と厳格な意思確認)

「即効型」は、任意後見契約の締結直後に、契約の効力を発生させる(直ちに任意後見監督人の選任を申し立てる)場合の形態です。 軽度の認知症や知的障害、精神障害などの状況にあり、法定後見制度でいう「補助」の対象となり得るような方であっても、契約締結時に「契約の意味を理解する能力(意思能力)」さえ残っていれば、任意後見契約を締結することが可能です。法定後見(補助・保佐)を申し立てると、裁判所が見ず知らずの専門家を選任する可能性がありますが、即効型を使えば「当初から自分が選んだ任意後見人による保護を受けることができる」という大きなメリットがあります。

⚠️ 即効型は、すでに判断能力が低下しつつある状態で契約を結ぶため、後に親族間などで「あの時、本人には契約する能力なんてなかったはずだ!」と契約の無効をめぐって紛争になるリスクが極めて高い類型です。 そのため、公証役場での実務では、委任者の意思確認について極めて慎重な取扱いがなされます。

  • 公証人による直接面接: 公証人が委任者に面接し、財産の概要、将来の生活設計(自宅や施設など生活場所に関する希望)、受任者との生活関係などを直接聴取して意思能力の存否を確認します。
  • 証拠の保全: 意思能力に疑義がある場合、公証人は「任意後見契約及びその効果を理解するに足りる能力を有することを証する診断書等」の提出を求めたり、委任者の状況等の要領を録取した書面を作成し、公正証書の原本と共に保存するといった厳格な証拠保全の手続きを行います。(※それでも能力がないと判断された場合は、公正証書の作成を拒絶され、法定後見の申立てを勧められます。)

📄任意後見契約公正証書(即効型)

※ベースは将来型と同じですが、「第2条」に直ちに効力を発生させるための特別な条文が追加されます。

第1条(契約の趣旨) (※「将来型」第1条と同内容を記載します。)

第2条(契約の発効) 本契約は、任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる。

2 乙は、本契約に基づく任意後見契約の締結の登記完了後直ちに(○○日以内に)、家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の請求をする。

3 本契約の効力発生後における甲と乙との間の法律関係については、任意後見契約に関する法律及び本契約に定めるもののほか、民法の規定に従う。

第3条から第10条まで (※「将来型」の第3条から第10条までと同じ内容を記載します。)

代理権目録

(※将来型と同じ内容を記載します。)

※契約直後(監督人選任後)から、不動産や金融資産の管理、介護施設との契約などを全面的に支援します。

さいごに:専門家による確実な制度設計を

任意後見契約は、ご自身の老後と財産を守るための非常に強力な防具ですが、移行型における濫用リスクや即効型における意思能力の立証など、書き方や運用を間違えれば、親族間のトラブルや財産の流出を招く諸刃の剣にもなります。 当事務所では、公証人や家庭裁判所の実務を熟知した専門家が、お客様の意思を正確に反映し、将来の紛争リスクを徹底的に排除した完全な契約書を作成いたします。「自分はどの型に当てはまるのか」「どのような代理権を設定すべきか」とお悩みの方は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。

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