遺言書に書くべき内容は、ご家族の構成や財産の種類、そして「誰にどのような想いを残したいか」によってお一人おひとり全く異なります。
このページでは、ご自身に合った遺言書の形を具体的にイメージしていただけるよう、当事務所でよく作成する「基本の条項例」から、複雑なご事情に寄り添う「特殊な条項例」までを幅広くご紹介します。
なお。ここに掲載している条項は、あくまで代表的な一例にすぎません。「自分の場合は、どう書けば法的に確実なのだろう?」と少しでも迷われましたら、どうぞお気軽に当事務所の弁護士にご相談ください。あなたの想いを余すことなく実現するための、最適な「言葉(条項)」をご提案いたします。
1.「書き方」の注意点
(1)人や財産は「客観的かつ正確に」特定して記載する
遺言書を見て、誰でも「誰のことか」「どの財産のことか」が間違いなく特定できるように記載しなければなりません。
- 人(相続人・受遺者) 「山田太郎」といった氏名だけでは、同姓同名の可能性があるので特定が不十分です。「氏名」に加えて「続柄(夫、妻、長男、長女等)」「生年月日」、第三者の場合は「住所」も記載して特定します。これらの情報は戸籍や住民票の記載の通りに正確に書かないと、同一人物かどうかの特定が難しくなり、手続きが滞る原因になります。
- 不動産 「自宅の土地と建物」といった曖昧な書き方ではなく、必ず法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得し、そこに記載されている「所在」「地番(家屋番号)」「地目(種類)」「構造」「地積(床面積)」などを正確に丸写し(転記)します。
- 預貯金 口座ごとに特定する場合は「金融機関名」「支店名」「口座の種類(普通・定期など)」「口座番号」まで正確に記載します。記載漏れや遺言作成後の口座開設に備え「○○銀行(○○支店)にある一切の金融資産」などと記載する方法もあります。
- 有価証券(株式等) 証券会社等の口座で管理されている場合は、「証券会社名」「支店名」「口座番号」「銘柄」「数量」などを記載して特定します。預貯金同様、「○○証券(○○支店)にある一切の金融資産」などと記載する方法もあります。
(2)「相続させる」と「遺贈する」を正しく使い分ける
財産を譲る相手が「法定相続人か、そうでないか」によって、使用する法律用語が異なります。この文言を間違えると、単独で名義変更ができなくなるなどの不都合が生じるおそれがあります。
- 法定相続人(配偶者、子、養子等)に渡す場合: 「相続させる」と記載します。これにより、他の相続人の協力を得ることなく、単独で不動産の相続登記や預貯金の解約手続きを行うことができます。なお、配偶者居住権については「遺贈(いぞう)する」と記載します。
- 法定相続人以外(事実婚のパートナー、息子の妻、孫、第三者等)に渡す場合 「遺贈する」と記載します。
2.財産の承継・分割に関する条項
(1)遺産分割方法の指定
遺産分割の方法には、主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3つがあります。それぞれの目的や財産状況に合わせた条項例は以下の通りです。
現物分割
不動産や特定の預貯金などを、そのままの形で特定の相続人に引き継がせる最も一般的な方法です。法定相続人に財産を渡す場合は、「相続させる」という文言を使用することで、他の相続人の同意や遺産分割協議を経ずに、単独で名義変更(相続登記など)が可能になります。
・相続財産全部の相続人を定める場合
第○条 遺言者は、遺言者の有する不動産、預貯金その他一切の財産を、遺言者の妻である○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
・相続財産ごとの相続人を定める場合
第○条 遺言者は、遺言者の有する別紙財産目録第○記載の財産を、遺言者の妻○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第○条 遺言者は、第△条までに記載した財産を除く、遺言者の有する一切の財産を遺言者の妻○○○○に相続させる。
- 💡 解説
- 相続財産ごとに相続人を定める場合、遺言書に書き漏らした財産や、遺言書作成後に新たに増えた財産があったときに備えて、「個別に記載した財産以外の財産を誰に相続させるか」を定める条項(包括条項)を追加しておかないと、相続発生時のトラブルや遺産分割協議の手間が生じることがあります。
代償分割
「代償(だいしょう)分割」とは、特定の相続人に特定の財産を渡す代わりに、取得分が少ない他の相続人に対して「代償金(金銭)」を支払わせる(債務を負担させる)という分割方法です。
第○条 遺言者は、長男○○○○に別紙財産目録第○記載の記載の不動産を相続させる。
2 長男○○○○は、前項の不動産を取得する代償として、二男○○○○及び長女○○○○に対し、それぞれ金○○○○万円を支払わなければならない。
第○条 長女○○○○は、第○条の相続の負担(代償金)として、長男○○○○に対し、第○条の財産に係る相続開始年度における固定資産税評価額の3分の1に相当する額を、遺言者が死亡した日の属する月の翌月から、毎月末日限り、金○円ずつ分割して支払うものとする。
- 💡 解説
- 代償分割を定める場合、財産承継者(代償金支払者)に、代償金を支払うだけの経済力(自己資金)が必要です。代償金の支払いがなされずに遺言が取り消されると(民法1027条類推)、遺産分割のやり直しとなりかねないので、財産承継者に十分な現金がないことが予想される場合、分割払いを定めておくことや、遺言者を被保険者、財産承継者を受取人とする生命保険に加入することが有効です。
- 不動産や株式等、承継させる財産の時価が変動する場合、代償金の額をどのように定めるかは非常に難しい問題であり、状況に応じて個別に判断する必要があります。
換価分割
「誰も使わない不動産を『お金』にして分ける場合」など、遺産を売却(換価)して現金化し、その代金を分割する方法です。
第○条 遺言者は、別紙財産目録記載の不動産を換価処分し、その換価代金から売却にかかる一切の費用、公租公課、遺言者の生前債務、葬儀費用を控除した残額を、長男○○○○及び二男○○○○に各2分の1の割合で相続させる。
第○条 遺言者は、別紙財産目録記載の不動産を遺言執行者に処分、売却させ、その売却代金から売却のための必要費用、税金、遺言者の生前債務、葬儀費用等並びに遺言執行に必要な費用及び遺言執行者の報酬を支払わせ、その残金につき、長男○○○○に相続させる。
第○条 遺言者は、遺言執行者に対し、下記の事項を指示する。
記
(1) 別紙不動産目録記載の土地及び建物並びに家財道具類その他の財産を適宜処分し、換価(換価困難なものは廃棄)すること
(2) 上記処分、換価によって得られた金員から、遺言者の債務全部を弁済し、かつ、遺言執行に要する費用及び遺言執行者の報酬を差し引いた残額を、長女○○○○に2分の1、二女○○○○及び三女○○○○に各4分の1の割合で相続させること
- 💡 解説
- 不動産をそのまま分けるのが困難な場合、遺言者に多額の負債がある場合や納税資金を確保したい場合等に有効な「清算型の遺言」です。相続人に譲渡所得税が発生する可能性があるので、注意が必要です。取得費(購入代金、建築代金、購入手数料、改良費等)に関する資料を集めておくことをお勧めします。
- 遺言の確実な実行のため、換価手続きを行う「遺言執行者」を指定しておくことが有効です。遺言執行者を指定する場合、遺言執行者に処分・換価及び所有権移転登記手続の権限を付与しておく必要があります。
- 売却代金から何を差引くのか明確に記載しておく必要があります。
- 相続人に譲渡所得税が発生する可能性があるので、注意が必要です。
相続分の指定
個別の財産ではなく、「妻に3分の2、長女に3分の1」といったように割合で相続分を指定する条項です。
第○条 遺言者は、遺言者の有する全財産について、次のとおり相続分を指定する。
妻○○○○ 3分の2
長女○○○○ 3分の1
- 💡 解説
- 割合を指定するだけであり、具体的に「どの財産を誰が取得するか」を決める場合は、相続人同士で遺産分割協議を行う必要があります。特定の財産を確実に残したい場合は「現物分割」と組み合わせるのが一般的です。
遺贈(包括遺贈・特定遺贈)
法定相続人以外の人(内縁のパートナーや息子の嫁など)や、法人・団体に対して財産を無償で譲る(寄付する)条項です。
第○条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の内縁の妻○○○○(昭和○年○月○日生)に包括して遺贈する。
- 💡 解説 法定相続人以外に財産を渡す場合は「相続させる」ではなく「遺贈する」という文言を使用します。全財産や一定の割合を指定して譲ることを「包括遺贈」といい、受遺者は相続人と同一の権利義務(借金などのマイナス財産も含む)を負うことになります。
配偶者居住権の遺贈
残された配偶者が、自宅の所有権を取得しなくても、終身または一定期間無償で住み続けられる権利を設定する条項です。
第○条 遺言者は、別紙財産目録記載の建物の配偶者居住権を、遺言者の妻○○○○に遺贈する。
2 前項の配偶者居住権の存続期間は、妻○○○○の死亡のときまでとする。
- 💡 解説
- 配偶者に居住権を取得させるには、遺言の中で「遺贈する」と明確に記載することが必要です。これにより、配偶者の住まいを確保しつつ、その他の財産(預貯金など)も配偶者に一定程度残しやすくなるメリットがあります。
負担付相続(遺贈)
「残されたペットの世話をすること」や「妻の介護をすること」などを条件として、財産を譲る条項です。
第○条 遺言者は、その有する不動産、現金、預貯金等一切の財産を遺言者の長男○○○○(平成○年○月○日生)に相続させる。
2 長男○○○○は、前項の相続をする条件として、次の負担を負う。
(1)長男○○○○は、妻○○○○(昭和○年○月○日生)が死亡するまで、本件遺言によって取得した別紙物件目録記載の建物において乙と同居し、乙を扶養すること
(2)長男○○○○は、妻○○○○が自己と同等の生活を維持できるよう、必要な生活費を負担し、かつ、誠実に療養看護に努めること
(3)妻○○○○の病気、要介護状態の進行、その他のやむを得ない事情により同居を継続することが困難となった場合、長男○○○○は、妻○○○○の同意を得て適切な高齢者施設等に入所させ、その入所一時金および月々の利用料等の諸費用を支払うこと
第○条 遺言者は、遺言者の愛犬○○を飼育し、同犬が死亡したときは手厚く埋葬することを負担として、遺言者の有する預貯金の全てを長女○○○○に相続させる。
- 💡 解説
- 受遺者や相続人に一定の法律上の義務(負担)を課すことができます。もし指定された義務を履行しない場合は、他の相続人や遺言執行者が催告を行い、それでも履行されない場合は遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法1027条(類推))。
- 負担者は、無限に責任を負うわけでなく、「遺贈(相続)の目的の価額を超えない限度」で、負担した義務を履行する責任を負うとされています(民法1002条1項(類推))。
予備的遺言
財産を譲る予定だった人が遺言者よりも先に(または同時に)亡くなった場合に備え、「その場合は○○に相続させる」等と次順位の人を決めておく条項です。
第○条 遺言者は、その有する一切の財産を、遺言者の妻○○○○に相続させる。ただし、妻○○○○が遺言者より先に又は遺言者と同時に死亡した場合は、当該財産を長男○○○○に相続させる。
第○条 遺言者は、夫○○○○が遺言者より先に又は遺言者と同時に死亡した場合には、前条に代えて前条記載の財産を、○○○○に包括して遺贈(寄付)する。
第○条 遺言者は、下記生命保険契約について、その死亡保険金受取人である遺言者の妻○○○○が、遺言者より先又は遺言者と同時に死亡した場合は、同生命保険の死亡受取人を、遺言者の長女○○○○に変更する。
- 💡 解説
- 遺言書を作成した時点から相続開始までに長期間が経過し、受遺者や相続人が遺言者より先または同時に死亡してしまうと、その部分の遺言の効力は生じず、遺産分割協議が必要になってしまいます。予備的遺言を定めておくことで、将来遺言を書き直す手間やトラブルを防ぐことができます。
- 事故などで死亡の先後が不明な場合、同時に死亡したものと推定されるので(民法32条の2)、先に死亡した場合だけでなく同時に死亡した場合も定めておく必要があります。
遺産分割の禁止
相続開始から最長5年間、遺産の分割を禁止することができます(民法908条1項)。
第○条 遺言者は、その有する財産の一切について、その分割を相続開始の時から○年間禁止する。
- 💡 解説
- 未成年の子がいるためすぐに遺産分割協議を行うと不都合がある場合や、直ぐに分割すると資金が準備できず事業継続が困難になる場合など、一定期間分割を凍結したい際に利用されます。
- 妻と未成年の子が相続人になる場合、親権者である母(妻)と未成年の子の利益が相反する(母の取り分が増えれば子の取り分が減る)」ため、未成年の間は、家庭裁判所で選任された「特別代理人」と遺産分割協議を行う必要があります。
- 特定の財産についてのみ分割を禁止することも認められると解されています。
3.相続人間の公平やトラブル防止のための条項
特別受益の持戻し免除
生前に特定の相続人へ行った多額の贈与(住宅購入資金の援助など)を、遺産分割の計算から除外(持戻しを免除)し、その人の相続分を減らさないようにする条項です。
第○条 遺言者は、長男○○○○に対する生前の起業資金の贈与について、特別受益としての持戻しを免除し、民法903条1項に規定する相続財産の価額の算定に当たっては、贈与に係る財産の価額は、相続財産の価額に加えないものとする。
第○条 遺言者は、長男○○○○に対し、令和○年○月○日に贈与した金○○万円について、民法第903条第3項に基づき、特別受益の持ち戻しを免除する。
- 💡 解説
- 婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として、遺言者から贈与を受けた相続人がいる場合、原則としてその贈与分が相続財産に加算(持戻し)されて相続分が計算されますが(民法903条1項)、遺言で持戻し免除の意思表示をしておくことで、特定の相続人に多くの財産を残すという遺言者の意思を実現できます(同条3項)。
- 持戻し免除の意思表示をしても、相続人の「遺留分(最低限の取り分)」の計算では、法律の規定通りに贈与分が加算されます。
遺留分侵害額の負担割合の指定
特定の相続人が遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を請求された場合に、誰が(どの財産から)優先してその金銭を支払うかを指定する条項です。
第○条 遺言者は、本遺言に関し、他の相続人から遺留分侵害額請求がなされたときは、当該遺留分侵害額について、長男○○○○が全部負担するものと指定する。
第○条 遺言者は、遺留分侵害額請求権の行使は、まず長男○○○○からすべきものと定める。
- 💡 解説
- 受遺者や受贈者が複数いる場合、原則として遺贈の目的物の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担しますが、遺言者の意思で負担の順序や割合を指定することが可能です。
- 遺留分を計算するための相続財産には、特別受益と同じように、婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として、遺言者から贈与を受けた価額を加算されますが、(遺言者と受贈者の双方が、他の遺留分権利者に損害を加えること(遺留分を侵害すること)を知っていない限り)相続開始前10年間に行われたものに限られます(民法1044条1項)。なお、遺留分侵害額から控除すべき特別受益に10年の期間制限はありません(民法1046条2項1号)。
共同相続人間の担保責任の指定
相続した財産に欠陥があった場合などに、相続人同士が負担する責任について指定する条項です。
第○条 本遺言により取得する財産について、共同相続人は、互いに民法第914条に基づく担保責任を負わないものとする。
- 💡 解説
- 通常、各共同相続人はその相続分に応じて他の共同相続人に対して担保責任を負いますが(民法911条)、遺言により別の定めをしたときは適用されません(民法914条)。そこで、担保責任を免除して取得した財産に関する共同相続人間でのトラブルを避けることができます。
4.身分や親権に関する条項
子の認知
婚姻関係にない男女間に生まれた子(婚外子)を、遺言によって自分の子として認知する条項です。認知された子は法定相続人となります。
第○条 遺言者は、○○○○(令和○年○月○日生、本籍:○○県○○市〜)を認知する。
第○条 遺言者は、○○○○(平成○年○月○日生、本籍:○○県○○市〜)が現に懐胎している子を認知する。
- 💡 解説
- 遺言による認知は、遺言者の死亡時に効力を生じます。認知の届出は遺言執行者が行うため(戸籍法64条)、遺言執行者の指定をしておきます。
- 認知に関係者(子が成年の場合、本人(民法782条)。子が胎児の場合母親(民法783条1項))の承諾が必要となる場合があります。
- 既存の相続人の相続分に影響することから、遺言書が破棄・隠匿されるリスクがあることに注意が必要です。
- 認知された子が法定相続人になるところ、他の相続人との遺産分割協議は困難である可能性が高いことに注意が必要です。
推定相続人の廃除・廃除の取消し
生前に虐待や重大な侮辱を受けたことなどを理由に、特定の相続人の相続権を奪う(または過去の廃除を取り消す)条項です。
第○条 遺言者の長男○○○○(昭和○年○月○日生)が、遺言者に対して日常的に「早く死ね」等の暴言を吐いて侮辱し、令和○年○月頃には遺言者を殴って全治○週間の怪我を負わせるなどの虐待を行ったため、遺言者は、長男○○○○を相続人から廃除する。
- 💡 解説
- 遺留分を有する推定相続人が、遺言者に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき、遺言で推定相続人から廃除することができます(民法892条、893条)。
- 廃除を有効にするには、遺言の効力発生後、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てを行い、審判によって認められる必要があります。客観的な証拠を準備しておくほか、遺言執行者の指定をしておきます。
未成年後見人・未成年後見監督人の指定
相続人である子が未成年で、親権を行使できる人が他にいない場合などに、財産管理等を行う後見人を指定する条項です。
第○条 遺言者は、未成年者である長男○○○○(令和○年○月○日生)の未成年後見人として、○○○○(平成○年○月○日生、住所:○○県○○市〜)を指定する。
- 💡 解説
- 最後に親権を行う者(単独の親権者など)は、遺言で未成年後見人を指定することができます。離婚して自分が単独親権者になっている場合、自分が死亡したからといって、生存している元配偶者が当然に親権者になるわけではありません。
- 未成年後見人に指定された者は、遺言者の死亡後直ちにその職務に就き、就職の日から「10日以内」に、遺言書の謄本を添付して未成年後見開始を届け出る必要があります(戸籍法81条)。そのため、指定する相手に「死後すぐに手続きが必要になること」を予め伝えておくことが重要です。
5.その他の財産に関する条項
祭祀承継者の指定
お墓、仏壇、家系図などの「祭祀財産」を受け継ぎ、法要などを主宰する人を指定する条項です。
第○条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、遺言者の長男○○○○を指定する。
第○条 遺言者は、遺言者及び祖先の祭祀を主催すべき者として、妻○○○○を指定し、同人に系譜、祭具及び墓地などの祭祀用財産を承継させる。
2 遺言者は、妻○○○○が、遺言者よりも先に又は同時に死亡した場合は、遺言者及び祖先の祭祀を主催すべき者として、遺言者の長男○○○○を指定し、同人に前条の祭祀用財産を承継させる。
- 💡 解説
- 祭祀財産は一般の相続財産とは区別され、事実上話合いによって決めることはできますが、遺産分割の対象外とされています。
- 祭祀承継者は、遺言者の指定がないと、慣習によって、慣習が明らかでないときは家庭裁判所の審判によって定まります(民法897条)。
- 信頼できる人を祭祀承継者に指定しておくことで、お墓の管理等をめぐるトラブルを防ぐことができます。また、祭祀に費用がかかる場合には、その手当も考えておく必要があります。
生命保険金受取人の変更
すでに契約している生命保険の死亡保険金受取人を、遺言によって変更する条項です。
第○条 遺言者は、遺言者を保険契約者兼被保険者として○○生命保険株式会社との間で締結した生命保険契約(証券番号○○○○)の死亡保険金受取人を、妻○○○○から、長女○○○○に変更する。
- 💡 解説
- 遺言による保険金受取人の変更は法律で認められていますが、遺言の効力発生後、相続人等が保険会社に通知を行わないと、保険会社に対抗できない点に注意が必要です。
信託の設定(遺言信託)
遺産を信頼できる人や会社に託し、指定した目的(障がいのある子の生活保障など)のために長期間にわたって管理・運用させる条項です。
第○条 遺言者は、遺言者の有する次の財産につき、次のとおり信託を設定する。
(1)信託の目的 次の信託財産を管理運用及び必要な給付を行い、受益者である妻○○○○の健康で文化的な生活及び福祉を確保すること
(2)信託財産 ○○銀行○○支店 普通預金(口座番号○○○○)の全額
(3)受託者 長男○○○○
(4)受益者 妻二男○○○○
(5)受益者への給付方法 受託者は、受益者に対し、本信託の効力発生の日の属する月の翌月から毎月末日限り、月額○○万円を給付する。
(6)信託の終了事由 受益者である妻○○○○が死亡したとき、又は信託財産が消滅したとき
(7)残余財産の帰属先 本信託が終了したときは、残余の財産は受託者である長男○○○○に帰属させる。
- 💡 解説
- 「自分が死んだ後、障がいのある子の財産管理を別の親族に任せたい」といったケースで有効です。受託者(財産を管理する人)や受益者(利益を受ける人)などを遺言で明確に定めておく必要があります。
- 遺言信託では、遺言者の死後、信託財産(不動産や預貯金)の名義を遺言者から「受託者」に変更する手続きが必要です。この手続きをスムーズに行うために、遺言執行者を指定しておくことが重要です。
6.遺言の実行・変更に関する条項
遺言執行者の指定・委託
遺言の内容(不動産の名義変更や預貯金の解約など)を単独で実行する権限を持つ人を指定する条項です。
第○条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。遺言執行者は、移転登記手続、預貯金の解約、払戻しその他本遺言の執行に必要な一切の権限を有する。
第○条 遺言者は、本遺言の執行者として○○○○(住所:○○県○○氏~)を指定する。
2 前項の遺言執行者が、死亡、辞退その他の事由により就職できないとき、又は任務を継続できなくなったときは、予備的遺言執行者として○○○○を指定する。3 遺言執行者は、本遺言に基づく不動産に関する登記手続、遺言者の預貯金、株式、投資信託等の金融資産の名義変更、解約及び払戻し並びに遺言者の貸金庫の開扉、内容物の引取り及び貸金庫契約の解約等、本遺言を執行するのに必要な一切の権限を有する。
4 遺言執行者は、本遺言の執行に関し第三者にその任務の全部又は一部を行わせることができる。
第○条 遺言執行者に対する報酬は、相続開始の時に遺言者が有する遺産総額の○%(税別)とする。ただし、最低額を○○万円(税別)とする。
- 💡 解説
- 遺言執行者を指定しておかないと、預金の解約などに相続人全員の協力(実印や印鑑証明書)が必要になり、手続きが難航することがあります。専門家(弁護士など)を指定しておくと、確実かつスムーズに遺言内容が実現されます。その場合、報酬についても取り決めておきます。なお、未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができません(民法1009条)。
- 遺言執行者の死亡、辞退などに備えて予備的遺言執行者を指定しておくことも検討します。
遺言の撤回
過去に作成した遺言の全部または一部を、新しい遺言によって取り消す(撤回する)条項です。
第○条 遺言者は、本遺言作成以前に作成したすべての遺言を撤回する。
第○条 遺言者は、令和○年○月○日、○○法務局所属公証人○○○○作成の同年月第○○号公正証書遺言による遺言者の遺言の全部を撤回する。
- 💡 解説
- 遺言はいつでも撤回が可能です(民法1022条)。複数の遺言がある場合、内容が抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされますが(民法1023条)、抵触する範囲について争いが生じる可能性があるので、トラブルを避けるために前の遺言を撤回する旨を記載しておくことが推奨されます。
7.法的効力はないが重要な事項(付言事項)
家族への感謝の気持ち、なぜこのような遺産分割にしたのかという理由、葬儀や散骨の希望などを伝えるためのメッセージ条項です。法的拘束力はありませんが、相続人間の不満を和らげ、トラブルを防ぐために非常に重要な役割を果たします。
1. 遺産分割の「理由」や「動機」に関する付言
なぜそのような遺産分割の内容(割合など)にしたのか、遺言者の考えや経緯を相続人に説明する項目です。
(付言事項)
今回、私は、全ての財産を二男の○○○○ではなく長男の△△△△に相続させることにしました。これは次のような理由によるものです。私は○○○○に対して、令和○年○月○日に○○○○の自宅を建てるための敷地として土地を贈与し、また、○○○○の生活費として金○○万円を贈与するなど、生前に多くの援助をしてきました。一方で、△△△△は私の介護を行うなど、長年にわたり私を大いに助けてくれました。せめて最後に残った財産は△△△△に譲りたいと考えたものです。どうか私の気持ちを理解してください。
- 💡 解説 「長男の妻には長年介護でお世話になったので多く分ける」「二男には生前に住宅取得資金を援助したため、今回の相続分を少なくした」といった具体的な経緯や理由を詳細に書き残すことで、法定相続分と異なる分け方をされた相続人の不満を和らげ、遺留分侵害額請求などの争いを思いとどまらせる効果があります。また、これらの事情が論理的に詳細に書かれていると、後で「認知症などで遺言能力がなかったのではないか」と疑われた際に、遺言者が正常な判断能力に基づいて遺言を作成したことの証明(推認)にも役立ちます。
2. 家族への「感謝」や「願い」を伝える付言
残される家族に対する個人的なメッセージや、これまでの感謝、将来への思いを綴る項目です。
(付言事項)
妻の○○には、長年連れ添い、共に苦労を乗り越えて私を支えてくれたことに心から感謝しています。 子どもたちには、私が亡き後も、兄弟姉妹で助け合い、母をよく助け、仲良く暮らしていってくれることを心から願っています。これが私の最後の願いであり、家族全員の幸福を祈っています。長い間、本当にありがとう。
- 💡 解説
- 妻への長年の感謝の言葉、子どもたちに対して「兄弟姉妹で助け合い、仲良く暮らしてほしい」という願い、家業の発展や家族の幸福の祈念などを記載します。遺言書という冷たい印象を与えがちな法的文書に「心」を吹き込み、相続人たちに「お父さん(お母さん)の最後の意思を尊重しよう」という気持ちを起こさせる最大の役割を果たします。
3. 「葬儀・法要」や「お墓」に関する付言
自身の死後の儀式や供養のあり方について、祭祀承継者や家族に具体的な希望を伝える項目です。
(付言事項)
私の葬儀については、通夜および告別式等の宗教的儀式は一切行わず、家族や近親者のみによる家族葬で静かに見送ってください。また、火葬後の遺骨については、実家のお墓には入れず、散骨にしてください。残された家族に葬儀やお墓の管理で負担をかけたくないというのが私の希望です。
- 💡 解説 葬儀や埋葬の方式に関する希望や、「実家のお墓には入らず永代供養にしてほしい」「墓じまいをしてほしい」といったお墓に関する指示などを記載します。遺言者の希望を明確にすることで、残された家族が「どのようなお葬式にすべきか」と迷う負担や親類からの干渉を減らすことができます。
4. 財産の「事後処理」や「使い方」に関する付言
残された財産や家、あるいはペットの今後について、法的な義務を課すのではなくソフトにお願いを記す項目です。
(付言事項)
1 私が亡くなった後、皆で話し合って遺品を処分(廃棄)し、自宅を売却(換価)してください。
2 ○○に遺贈する金員については、動物保護のために有効に役立てていただくことを切に希望します。
3 愛犬○○の世話については、長女の○○に託します。これまで通り愛情を持って最後まで面倒を見てくれることをよろしく頼みます。
- 💡 解説
- 「空き家になる自宅は売却処分してほしい」といった家の処分方法の希望や、寄付(遺贈)をするにあたって「この寄付金は動物保護のために使ってほしい」といった使途の希望を記載します。また、「負担付遺贈」などの厳格な法的な形をとらずに、「残された愛犬の世話をよろしく頼む」とソフトに依頼する場合にもこの項目を使用します。遺言者の意向を明確に示すことで、引き受ける相続人の心情的な受け入れをスムーズにし、大切なペットや財産が適切に扱われるよう導くことができます。
複雑なご事情こそ、専門家にご相談を
ここに挙げたものはほんの一例です。インターネットにある無料のひな形では対応しきれないようなデリケートなお悩みも、法律と実務の専門家である弁護士にご相談いただくことで、必ず解決の糸口が見つかります。
「うちの場合はどうなるだろう?」と少しでも不安を感じられましたら、どうぞお気軽に当事務所までお声がけください。あなたの想いを、法的にもっとも確実な形で実現いたします。